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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)3637号 判決

原告

和田弘子

右訴訟代理人弁護士

大野町子

(他五名)

被告

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

西村康雄

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

右訴訟代理人

福田一身

三国多喜男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一〇八三万〇五〇五円及びこれに対する平成五年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事実の概要

本件は、日本国有鉄道(以下「国鉄」という)に雇用されていた原告が、国鉄から支払を受けた退職手当の算定に誤りがあって、その一部が未払であり、また、国鉄が臨時雇用員の地位にあった原告に対して正職員となる機会を与えなかった不法行為がある旨主張して、国鉄の債務を承継した被告に対し、右退職手当の残額及び不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  被告は、昭和六二年四月一日、国鉄の分割民営化に伴って設立され、国鉄の一部債務を承継した法人である(日本国有鉄道改革法一五条、同法附則二項、日本国有鉄道清算事業団法一条)。

2  国鉄は、線路、建築物等の建設及び改良の工事に関する業務を行う地方機関として、大阪工事局を設置し、原告は、昭和四七年三月九日、国鉄大阪工事局(以下「大阪工事局」という)に雇用された。

3  国鉄と原告間の雇用契約は、昭和五八年九月三〇日限り終了した。

4  原告は、右雇用関係の終了を争い、国鉄を相手方として、地位確認、賃金支払等を求めて、当庁に対して訴えを提起した(当庁昭和五九年ワ第六三五号事件)ため、国鉄は、昭和五八年一〇月一四日、原告の退職金として五〇万九八二〇円を供託し、原告はこれを受領した。なお、右訴訟については、平成元年一月一三日、請求棄却の判決が言い渡され、平成三年一〇月一一日、右判決に対する控訴が棄却され(大阪高等裁判所平成元年ネ第二三一八号事件)、平成四年一〇月二〇日、右判決に対する上告も棄却された(最高裁判所平成四年オ第七九号事件)。

二  原告の主張

1  退職手当支払請求

(一) 原告は、昭和四七年三月九日に雇用され、昭和五八年九月三〇日、雇止めにより国鉄との雇用関係を終了したところ、勤続期間一一年、俸給月額一二万〇七五〇円(昭和五八年九月三〇日当時の日給額四八三〇円の二五日分)、自己都合によらない退職であるので、国家公務員等退職手当法(昭和五八年九月当時のもの。以下「法」という。なお、以下に判示する法令、規定、事務連絡は、いずれも、原告が退職した昭和五八年九月当時のものである)三条一項を適用すべきであり、その退職手当は、一三四万〇三二五円となる(一二〇七五〇×(一〇×一〇〇分の一〇〇+一×一〇〇分の一一〇)=一三四〇三二五)。

(二) 被告は、原告が法二条一項所定の「常時勤務に服することを要するもの」に当たらないとして、法二条二項、法施行令一条一項二号所定の、臨時職員として勤務した日が二二日を超える月が引き続き六月を超えるといえ要件を具備した期間のみが退職手当算定の際の勤続期間に算入されるべきであるところ、原告においては、昭和四七年三月九日から昭和四八年九月三〇日までの間及び昭和五一年一〇月から同五二年三月までの間は右要件を具備しないので、退職手当算定の基礎となる勤続期間に算入されない旨主張する。

しかし、原告は、その雇用契約締結の当時から、定員内職員と同様の長期雇用が予定されていたのであるから、法二条一項所定の「常時勤務に服することを要するもの」に当たる。

仮に、原告が、法二条一項所定の右職員に当たらず、同条二項の適用がある職員であるとしても、同条項所定の職員の要件を定める法施行令一条一項二号は、内閣総理大臣の定めるところにより職員について定められている勤務時間(以下「職員勤務時間」という)以上勤務した日が引き続いて一二月を超えることとしているにすぎず、被告主張のように月間の最低勤務日数について二二日との制限を設けていないから、職員勤務時間以上勤務した日が二二日以上ない月が途中にあったとしても、法二条二項所定の要件を充足する。また、これが法所定の要件であると仮定しても、右職員勤務時間以上勤務した日が一二月以上継続した後は、右勤務した日が二二日に満たない月があったとしても、同月も退職手当算定の基礎となる勤続期間に算入すべきである。

また、前記の各期間の原告の欠勤日は、いずれも許可を得た無給休暇であるので、右無給休暇を算入すれば、臨時職員として勤務した日が二二日を超える月が引き続き六月を超えており、右要件を具備しているのであるから、右期間も退職手当算定の基礎となる勤続期間に算入すべきである。

したがって、いずれにしても、被告の右主張は失当である。

(三) 被告は、原告が、昭和四八年九月三〇日に一旦任意退職して、昭和四九年一月一〇日、再度大阪工事局との間で雇用契約を締結した旨主張するが、原告は、昭和四八年九月三〇日に退職しておらず、産休を取ったにすぎず、その際提出した退職届けは、退職の趣旨で作成したものではないので、被告の右主張は誤りである。

(四) 被告は、退職金算定の基礎となる俸給の日額を、原告の日給額の八割である旨主張するが、八割に減額する理由はなく、日給額全額と解すべきである。

(五) 被告は、原告の退職手当の算定について、法三条二項を適用すべきである旨主張するが、同条一項は普通退職の場合の原則について規定し、同条二項は自己都合退職等一定の条件下で減額できる場合を規定したものであることは文理上も明らかであるところ、原告は、同条二項の条件には該当しないので、原告の退職手当の算定については、同条一項を適用すべきである。

よって、原告は、被告に対し、右未払退職手当八三万〇五〇五円及びこれに対する本件訴状の送達により請求した日の翌日である平成五年五月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  慰謝料請求

(一)(1) 国鉄は、国鉄労働組合と昭和四一年一二月一七日、臨時雇用員が職員採用試験を希望するときは、受験の機会を与えるようにする、臨時雇用員を一定の必要ある場合を除き段階的に解消する旨協定し(以下「昭和四一年協約」という)、右協約は、昭和六二年三月三一日に廃棄されるまで有効に存続した。

(2) しかるに、国鉄は、国際婦人年の昭和五二年から三年間、一般女性職員を募集・採用した(内訳・昭和五二年・全国で二七名、大阪鉄道管理局管内五名(事務補助)、年齢制限二三歳、昭和五三年・全国で三五名、年齢制限二一歳、昭和五四年・全国で三五名(大阪鉄道管理局内三名)、年齢制限二一歳)が、原告らに受験の機会を与えないばかりか、それ以外は臨時雇用員の段階的解消どころか、むしろ継続的に女性臨時雇用員を採用し続けた。

(3) 原告(昭和二八年六月五日生)は、昭和五二年四月一三日、大阪鉄道管理局との団体交渉に出席し、自己の職員化を求めたが、国鉄は、年齢制限にかかり受験資格がないとして、拒否し、原告に受験の機会を与えなかったが、右行為は、(1)の協定に違反する違法な行為である。

(二) 国鉄は、原告ら臨時雇用員の職務内容が職員と区別できない状態であったにもかかわらず、原告ら臨時雇用員を職員と給与、産休制度などの差別的な扱いをする違法行為をした。

(三) 原告が、国鉄の右不法行為により、受けた損害を慰謝料として評価すれば、一〇〇〇万円を下回らない。

よって、原告は、被告に対し、右不法行為による慰謝料一〇〇〇万円及びこれに対す不法行為の後である平成五年五月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

1  退職手当支払請求

原告の退職手当は、五〇万九八二〇円であり、その全額を支払済みである。

(一) 原告は、臨時雇用員であって、法二条一項所定の常時勤務に服することを要する者(職員)には当たらない。原告が、法施行令一条一項二号により、職員勤務時間以上勤務した日が引き続いて一二月を超えるに至った者で、その超えるに至った日以降当該勤務時間により勤務するとされている者に当たる場合にのみ、法二条一項二号の職員とみなされ(法施行令一条一項二号)、退職手当の算定について、法が適用されるにすぎない(法二条二項)。

(二) 法施行令一条一項二号について、解釈運用方針(昭和二八年九月三日蔵計第一八二三号大蔵大臣通知、以下「解釈運用方針」という)は、同号の定める「職員勤務時間以上勤務した日が引き続いて一二月を超えるに至った者」とは、雇用関係が社会通念上継続していると認められる場合において、職員勤務時間以上勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて一二月を超えるに至ったものをいうと解しており、国鉄もこれを受けて、臨時雇用員について、職員勤務時間以上勤務した日(以下「臨時雇用員として勤務した日」という)が二二日以上ある月が引き続いて一二月を超えるに至った者について、法二条一項二号所定の職員に当たると解しており(退職手当支給事務基準規程(以下「基準規程」という)一条、臨時雇用員退職手当について(事務連絡)(以下「事務連絡」という)前文)(なお、事務連絡四項は、右勤務期間の要件を充足しない場合であっても、当分の間、臨時雇用員として勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて六月を超える場合には右職員に当たるとする)、したがって、臨時雇用員の退職手当については、臨時雇用員中右の要件を具備した者について、右の要件を具備した期間を勤続期間として算定すべきである。

(三) 法所定の勤続期間は、年を単位として計算されるところ(法七条)、原告は、昭和四八年九月三〇日に一旦任意退職して、昭和四九年一月一〇日、再度大阪工事局との間で同旨の約定の雇用契約を締結しており、原告と大阪工事局との間の雇用関係が継続した期間中、昭和四七年三月九日から昭和四八年九月三〇日までの間及び昭和五一年一〇月から同五二年三月までの間は、いずれも、原告が臨時職員として勤務した日が二二日を超える月が引き続き六月を超えていなかったのであるから、原告の右勤続期間は、二年(昭和四九年一月一〇日から昭和五一年九月までに相当する右勤続期間)及び六年(昭和五二年四月から昭和五八年九月までに相当する右存続期間)と解すべきである。

(四) 俸給額が日額で定められている者については、俸給の日額の二五日分に相当する額を俸給月額とすべきであるが(法三条)、同条について、解釈運用方針は、賃金又は手当の額のうち俸給に相当する分の額が賃金又は手当の額の算定上明らかである者以外の者で、賃金又は手当の額が日額で定められている者については、当該日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額を右俸給月額とすべきとしており、国鉄も、これを受けて、臨時雇用員の俸給月額を、退職日の賃金日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額に当たるとして算定する取扱いをしている(事務連絡一項(1))。

そして、原告の昭和五一年九月の日給額が三一三〇円、昭和五八年九月当時の日給額が四八三〇円である。

(五) 法三条は、一項が勤続期間が一一年以上の場合について、二項が勤続期間が一〇年以下の場合についての退職手当の算定方法を定めたものであるので、原告の退職手当の額は、同条二項を適用して、昭和五一年九月における俸給月額×一〇〇分の六〇+昭和五八年九月における俸給月額×一〇〇分の七五の方法で算定すべきである。

(六) したがって、原告の退職手当の額は、五〇万九八二〇円である(三一三〇×〇・八×二五×二×〇・六+四八三〇×〇・八×二五×六×〇・七五=五〇九八二〇)。

2  慰謝料請求

国鉄は、原告主張の協定に違反したことはなく、原告主張の不法行為をしていない。

(一) 国鉄と国鉄労働組合との間で、原告主張の了解事項が昭和四一年一二月一七日に締結されたが、右了解事項は、国鉄職員として本採用することを前提とした「採用前提臨時雇用員」を解消するために締結されたものであって、原告のような二か月単位の有期雇用の者を対象としたものではない。

(二) また、国鉄と国鉄労働組合との間では、その後、毎年同旨の了解事項を締結したが、最後に締結された昭和四四年一二月一五日の了解事項は、有効期間を一年間とする旨合意しているので、右了解事項は、その一年後である昭和四五年一二月一五日限り失効した。

(三) したがって、原告が雇用された昭和四七年三月九日当時、原告主張の協定は失効していたことが明らかであるから、国鉄が原告について右協定に違反する不法行為をしたことがないことは明らかである。

(四) 国鉄の原告に対する在職中の処遇は、原告との間の雇用契約に基づくものであり、実質的にも合理性があり、何ら違法ではない。

四  主たる争点

1  原告の退職手当の額

2  国鉄が、原告に対し、原告が職員となる機会を与えなかった不法行為があったか否か。

五  証拠(略)

第三争点に対する判断

一  退職手当請求

(一)  一判示の事実並びに(証拠略)原告本人尋問の結果(ただし、後記認定に反する部分を除く)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四七年三月九日、大阪工事局との間で、雇用期間を二月と定め、事務補助を行う臨時雇用員として雇用契約を締結し、その後右契約の更新を繰り返したが、昭和四八年九月三〇日に任意退職したこと、原告は、昭和四九年一月一〇日、再度大阪工事局との間で同旨の約定の雇用契約を締結し、その後更新を繰り返した後、昭和五八年九月三〇日、大阪工事局が雇用期間の満了により右雇用契約を終了させる旨の意思表示をして、右雇用契約が、同日限り終了したことが認められる。

(二)  原告は、原告が昭和四八年九月三〇日に退職しておらず、産休を取ったにすぎず、その際提出した退職届け(書証略)は、退職の趣旨で作成したものではない旨主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分もあるが、原告は、その本人尋問中で、(書証略)の退職届けを自書したことを認めるところ、(書証略)には、原告が一身上の都合により退職する旨の記載があり、原告が右記載が任意退職の申出を意味するものであることを理解しなかったとは到底認められないこと、原告が、その後、退職するまでの間、(書証略)により国鉄が原告をいったん退職した扱いをしたことについて格別異議を述べた形跡がないこと及び(一)掲載の各証拠に照らすと、原告の右供述をもって、右の認定を覆すに足りず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

2(一) 国家公務員等に支給する退職手当の基準を定める法の適用範囲について、法二条一項は、国鉄に勤務する者のうち、常時勤務に服することを要する者(職員)の退職手当には法が適用され、同条二項及び法施行令一条一項二号は、常時勤務に服することを要しない者のうち、職員勤務時間以上勤務した日が引き続いて一二月を超えるに至った者で、その超えるに至った日以降当該勤務時間により勤務するとされている者は、法二条一項二号の職員とみなし(法施行令一条一項二号)、その者の退職手当の算定についても、同法が適用される(法二条二項)旨規定している。

(二) 法施行令一条一項二号について、解釈運用方針(書証略)は、同号の定める「職員勤務時間以上勤務した日が引き続いて一二月を超えるに至った者」とは、雇用関係が社会通念上継続していると認められる場合において、職員勤務時間以上勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて一二月を超えるに至った者をいうと解しており、国鉄もこれを受けて、臨時雇用員について、法二条一項所定の常時勤務に服することを要する者には当たらないとし、臨時雇用員として勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて一二月を超えるに至った者については、法二条一項二号所定の職員に当たるという解釈を採用しており(基準規程一条、事務連絡前文・書証略)、右解釈は合理的なものとして是認できる。

したがって、臨時雇用員の退職手当については、臨時雇用員中右の要件を具備した者について、右の要件を具備した期間を勤続期間として算定すべきことになる。

なお、国鉄は、当時、経過措置として、当分の間、臨時雇用員として勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて六月を超えるに至った場合には、基準規程一条一号の職員とみなし、その者に対して、法令、基準規程により算定される退職手当額の一〇〇分の五〇を支給する取扱いをしていた(事務連絡四項・書証略)。

(3)(一) 以上によれば、原告の退職手当を法に基づいて算定する場合、その基礎となる法三条所定の勤続期間は、原告と大阪工事局との間の雇用契約の存続期間中、2判示の要件を具備した期間であると解すべきところ、(書証略)によれば、原告と大阪工事局との間で雇用契約が継続していた期間中、昭和四七年三月九日から昭和四八年九月三〇日の間及び昭和五一年一〇月から同五二年三月までの間は、いずれも臨時職員として勤務した日が二二日を超える月が引き続き一二月はもとより六月も超えなかったことが認められるものであるから、原告については右期間を控除して法所定の勤続期間を算定すべきである。

そして、法所定の勤続期間は、年を単位として計算すべきところ(法七条)、前記認定の事実によれば、原告の右勤続期間は、二年(昭和四九年一月一〇日から昭和五一年九月までに相当する右勤続期間)と六年(昭和五二年四月から昭和五八年九月までに相当する右勤続期間)を超えないことになる。

(二) 退職手当を算定する基礎となる法三条所定の俸給月額は、俸給額が日額で定められている者については、俸給の日額の二五日分に相当する額を俸給月額とすべきである(法三条)。そして、解釈運用方針(書証略)は、同条所定の俸給月額が、賃金又は手当の額のうち、俸給に相当する分の額が賃金又は手当の額の算定上明らかである者以外の者で、賃金又は手当の額が日額で定められている者については、当該日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額とするという解釈を採用しており、国鉄もこれを受けて、臨時雇用員の俸給月額を、退職日の賃金日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額に当たるとして算定すべきであるという解釈を採っている(事務連絡一項(1)・書証略)。

法三条所定の俸給とは、勤務時間による勤務に対する報酬であって、特別調整額、初任給調整手当、扶養手当などの手当を除いた額であると解すべきであり、原告は、雇用契約において日額で賃金額が定められており、諸手当の定めがなく、右賃金の内右勤務時間に対する報酬部分が必ずしも明確でないことにかんがみると、原告について、このような方法で俸給の日額を算定すべきであるという解釈は合理性があり是認できるものであって、原告の同条所定の俸給月額は、この方法により算定した額を上回ることはないものと認められる。

そして、(書証略)及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和五一年九月の日給額が三一三〇円、昭和五八年九月の日給額が四八三〇円であることが認められ、右の日給額によって原告の右俸給月額を算出すると、昭和五一年九月が六万二六〇〇円(三一三〇×〇・八×二五=六二六〇〇)、昭和五八年九月が九万六六〇〇円(四八三〇×〇・八×二五=九六六〇〇)であることが認められる。

(三)  法三条は、勤続期間が二五年未満で、法四条一項ないし三項、五条一項又は三項の規定に該当しない場合における退職手当の額の算定方法を定めた規定であり、一項が勤続期間が一一年以上の者の場合について、二項が勤続期間が一〇年以下の者の場合についての退職手当の算定方法を定めたものであると解するのが相当であり、原告の勤続期間は、二〇年未満であるので、その退職手当の額は、同条二項を適用して算定すべきである。

(四)  以上によれば、原告の退職手当の額は、五〇万九八二〇円を超えないものと認められる(六二六〇〇×二×〇・六+九万六六〇〇×六×〇・七五=五〇九八二〇)。

4(一) 原告は、原告が、その雇用契約締結の当時から、定員内職員と同様の長期雇用が予定されていたのであるから、法二条一項所定の常時勤務に服することを要する者に当たる旨主張する。

しかし、法二条一項所定の「常時勤務に服することを要する者」とは、法律上の定員内の職員であると解すべきところ、原告が右職員に当たることは認めるに足りない上、日本国有鉄道法二六条が、日本国有鉄道の職員とは、日本国有鉄道に常時勤務する者であって、役員及び二月以内の期間を定めて雇用される以外の者をいう旨規定していること、前記認定の事実によれば、原告の雇用契約は、二か月の期限付きであり、その給与も日給の約定であるなど長期の雇用を予定する契約内容であるとは到底いえないことなどの点を考え併せれば、原告が法二条一項所定の常時勤務に服することを要する者に当たらないことは明らかであり、ほかにこれを肯定するに足りる証拠はない。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(二) 原告は、法施行令一条一項二号の要件には、月間二二日以上勤務することが要件とされていないので、月間の勤務日が二二日以内の月があったとしても、勤続期間に通算されるべきである旨主張する。

しかし、同号所定の「職員勤務時間以上勤務した日が引き続き一二月をこえる場合」とは、各月の勤務日が一日でもあれば足りるという趣旨ではなく、常時勤務に服することを要する職員と同様に処遇することに合理性が認められるに足りる日数であることを要するものと解すべきであり、そうすると各月の休日なども考慮すれば、月二二日以上の勤務を要するとした国鉄の解釈が不合理なものであるとはいえず、原告の右主張は採用できない。

(三) 原告と大阪工事局との間の雇用契約の存続期間中、昭和四七年三月九日から昭和四八年九月三〇日までの間及び昭和五一年一〇月から同五二年三月までの間の欠勤日は、いずれも許可を得た無給休暇であるので、右無給休暇を算入すれば、臨時職員として勤務した日が二二日を超える月が引き続き六月を超えるという前記の要件を具備するので、右期間も法三条所定の勤続期間に算入すべきである旨主張し、原告本人尋問中にはこれに沿う供述があるが、右供述も(書証略)に照らすと、これをもって、原告の右欠勤日が許可を得た無給休暇であることを認めるには足りず、したがって、原告の右主張は採用できない。

(四) 原告は、法施行令一条は、同条所定の要件を満たす勤務日が二二日以上あった月が一二月継続した後は、その後、右勤務日が二二日に満たない月があったとしても、勤続期間が中断するものではない旨主張する。

しかし、法施行令一条により、臨時雇用員について、法が適用されるためには、同条所定の勤務時間により勤務することが予定される場合では足りず、現実に同条所定の勤務時間により勤務することを要するものと解すべきであるので、同法の勤続期間についても、同条所定の要件を具備する期間のみ通算すべきであり、したがって、原告の右主張も採用できない。

(五)  原告は、法三条所定の俸給月額が、原告の日給額に二五を乗じて算定すべきであり、日給額の八割に減額した額に二五を乗じて算定すべきでない旨主張するが、右主張が採用できないことは3(二)判示のとおりである。

(六)  原告は、法三条二項が自己都合退職の場合、同条一項がその余の場合についての退職手当の算定方法を定めたものであるので、原告の退職手当の額は、同条一項に基づき算定すべきである旨主張する。

しかし、同法三条は、勤続期間が二五年未満で、法四条一項ないし三項、五条一項又は三項の規定に該当しない場合における退職手当の額の算定方法を定めた規定であって、一項が勤続期間が一一年以上の場合について、二項が勤続期間が一〇年以下の場合についての退職手当の算定方法を定めたものであると解するのが相当であることは、3(三)判示のとおりである。そして、同条二項が文理上、「勤続期間一年以上五年以下の者」(同項一号)、「勤続期間六年以上一〇年以下の者」(同項二号)にそれぞれ適用されるのみで、勤続期間一一年以上の者に適用されず、勤続期間一一年以上二四年以下の者については、同条一項のみが適用されることが明らかであること、同条一項は、「その者の勤続期間を次の各号に区分して、当該各号に掲げる割合を乗じて得た額の合計とする」と定めており、同条一号が「一年以上一〇年以下の期間」、同条二号が「一一年以上二〇年以下の期間」、同条三号が「二一年以上二四年以下の期間」について定めることからすると、同項が適用されるのは、勤続期間が同項各号に区分される場合、すなわち、勤続期間が一一年以上の場合であると解すべきであること、原告主張の解釈では、同項二項が自己都合で退職した者についての退職手当の減額を定めた規定であるということになろうが、勤続期間が一〇年以下の場合における自己都合退職について二項が適用され、一項の場合より大幅な退職手当の減額がされるのに、一一年以上二四年以下の者については自己都合退職による場合であっても同条一項が適用され、二項の減額が全くされないことになり、このような帰結の実質的な合理性が明らかでないことなどの点に照らしても、右解釈が正当であることは明らかである。

したがって、原告の右主張も、採用できない。

5 以上によれば、被告が原告に対して支払うべき退職手当額は、五〇万九八二〇円を超えないものと認められるところ、前判示のように、被告は、原告に対し、同額を供託し、原告はこれを受領したことが認められるのであるから、原告の本件退職手当請求は理由がない。

二  慰謝料請求

1(一)  原告は、国鉄が、国鉄労働組合と昭和四一年一二月一七日、臨時雇用員が職員採用試験の受験を希望するときは、受験の機会を与えるようにする、臨時雇用員を一定の必要ある場合を除き段階的に解消する旨協定しながら、原告らに受験の機会を与えるなど臨時雇用員の解消をせず、とりわけ、原告が昭和五二年四月一三日、大阪鉄道管理局との団体交渉に出席し、自己の職員化を求めたのに対し、国鉄は、年齢制限にかかり受験資格がないとして、拒否するなど右協定に反する不法行為を行った旨主張する。

(二)  (書証略)によれば、国鉄が、国鉄労働組合との間で、昭和四一年一二月一七日、臨時雇用員が職員採用試験の受験を希望するときは、受験の機会を与えるようにする旨協定して、これを了解事項として書面化し(昭和四一年協定)、右了解事項交渉の過程において、国鉄労働組合は、国鉄が右採用試験の受験に当たっては、年齢制限を行うべきでない旨申し入れ、国鉄がこれを了解した旨述べたことが議事録確認として書面化されたこと(書証略)、国鉄は、昭和四二年一二月一五日、国鉄労働組合との間で、臨時雇用員が職員採用試験の受験を希望するときは、受験の機会を与えるようにする旨を再度確認する協定を行ったが、その際、右協定の有効期間を一か年とする旨協定し(書証略)、その後も、昭和四三年一二月一五日、昭和四四年一二月一五日にも、協定の有効期間を一年間と定めた上、同様の内容の協定を締結して、これを了解事項として書面化したこと(書証略)、それ以後は、同様の協定を締結していないことが認められる(証拠略)。

右認定の事実によれば、昭和四一年協定締結後に同協定と同旨の協定が有効期間を定めて締結されているところ、右の事実と昭和四一年協定の存在とを整合性をもって解するならば、昭和四一年協定は、昭和四二年以降昭和四四年まで毎年締結された昭和四一年協定と同旨の協定において、有効期間を有するものとして改訂・終了したものと解するのが相当である。そうすると、原告が雇用された昭和四七年三月九日当時、右協定は存在しなかったものと認められる。

よって、国鉄による右協定違反を理由とする原告の右不法行為の主張は、理由がない。

(三)  もっとも、原告は、昭和四一年協定は、右両者間で昭和五九年一二月一日に締結された協定(書証略)によって存続するとされており、その効力を有する旨主張する。確かに、(書証略)には原告主張のような記載はあるが、右認定説示のとおり、昭和四一年協定締結は、昭和四七年三月九日当時、改訂・終了していたものと解するほかなく、その後、昭和五九年一二月一日の右協定によって存続するとされたのは、右協定が昭和四一年協定を改定した協定の処理について全く言及していないこと及び前判示の昭和四一年協定の改定の経緯を考え併せると、右協定が単に有効期間の定めがあるかどうかによって整理したために生じた齟齬でないかとの疑いが払拭できないが、仮に、原告主張のとおり昭和四一年協定がその後も効力を有していたとしても、右認定の事実によると、右協定は、臨時雇用員の使用に関し一般的・抽象的な方針について合意したにすぎず、これによって国鉄が、原告に対し、原告が職員採用試験の受験を希望するときに、受験の機会を与えるべき義務を含め、職員として採用する機会を与えるべき法的義務を負ったものとは認めることができない。

また、原告は、昭和五二年四月一三日の大阪鉄道管理局との団体交渉において、自己の職員化を求めたが、国鉄は、年齢制限にかかり受験資格がないとして拒否した旨主張するが、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、昭和五二年の職員採用は、新規の女子職員の採用であって、その年齢制限が二三歳であり、原告は右の年齢制限にかかったことによって受験することができなかったことを認めることができ、右の事実からすると、原告が右採用試験を受験できなかったことはやむを得ないことであり、それは昭和四一年協定交渉時に、国鉄が臨時雇用員の職員採用試験の受験に当たっては、年齢制限を行うべきでない旨の議事録確認をしていたとしても、右の議事録確認によって国鉄が原告に対し、個別に右同旨の法的義務を負うに至るものでないことに徴すると、国鉄が原告に右の受験をさせなかったことをもって違法なものということはできない。

ほかに、国鉄が原告に対し、職員として採用する機会を与えるべき法的義務を負い、これに違反したことを認めるに足りる証拠はない。

2  原告は、原告ら臨時雇用員の職務内容が職員と区別できない状態であったにもかかわらず、国鉄が原告ら臨時雇用員を職員と給与、産休制度などの差別的な扱いをしたことが違法である旨も主張するようであるが、前判示のように、大阪工事局は、原告との間で雇用期間を二月とする事務補助を行う臨時雇用員として雇用契約を締結し、右契約の内容に従って原告を処遇したものであって、右雇用契約の締結行為や契約内容が違法であるとは認められず、右雇用契約が雇用期間を二月とするものであったことにかんがみれば、右契約に基づく臨時雇用員の待遇について、職員と異なる点があったとしても、直ちにこれが違法であると認めることはできず、原告の処遇についても違法があるとは認めるに足りない。

3  したがって、原告の被告に対する本件慰謝料請求は理由がない。

三  結語

以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がないので棄却する。

(裁判長裁判官 松山恒昭)

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